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【関西】第20回 新現役宣言フォーラム in 関西「石平氏を迎えて」

 

現代中国の政治経済情勢と日中関係
現代中国の政治経済情勢と日中関係

 

 2014年8月1日、大阪市の國民會館武藤記念ホールで、第20回新現役宣言フォーラム in 関西を開催しました。今回は福岡理事長をホストに、評論家で拓殖大学客員教授の石平氏をゲストとしてお迎えし、現在の中国国内の政治状況や経済情勢についてお話をいただきました。


●習近平体制で大きく変わってきた中国の政治
石  みなさまこんばんは。中国に習近平政権が誕生したのが2012年の11月。今日までの1年9ヶ月間で彼がやってきたことのひとつに、腐敗摘発運動があります。なぜ彼が腐敗の摘発に力を入れるのかといいますと、その理由のひとつは権力闘争です。習近平が権力基盤を固めるためには、江沢民派は邪魔な存在ですので、腐敗の摘発という名を借りて胡錦濤派のバックアップの下、党内の江沢民派(周永康や徐才厚ら)を排除したいということがあります。もうひとつは、腐敗摘発運動を通して、党内での自分の派閥の拡大を図り、自身の権力を確立したい。しかしこの摘発運動はやりすぎた感があります。党内の幹部たちは毎日ビクビクしています。つまり誰もが摘発される可能性があるということです。また習近平には共産主義的原理主義者という側面があります。彼は就任してから「倹約令」というものを出しました。幹部たちの飲み食い、贅沢を禁じたわけですが、共産党党内では習近平に対する不平不満が高まっています。胡錦濤(前主席)という人は習近平を道具に使って、自分の政敵である江沢民派を完全に叩きつぶすことを考えています。叩きつぶしたあとで、幹部たちの不平不満を利用し、習近平を今の座から引きずり下ろすというプランを考えているのかもしれません。そのあたりを含めて考えると、習近平政権が今後長続きするのかどうか、大変に不透明です。
 習近平政権のめざすところは彼がよく口にする二つの言葉で理解できます。「民族の偉大なる復興」、そしてその手段としての「強軍」という考え方です。民族の偉大なる復興とは、近代以前の中華秩序を取り戻すことです。こうした考え方は非常に危険です。この政権が誕生して以来、中国はアジアの各地でトラブルを起こし、ベトナムやフィリピン、日本などと対立しています。あちこちでケンカを売るこの姿勢は、習近平の危険な政策路線からくるものです。これは日中関係においても大きな問題となります。日中の最大の問題は「尖閣」です。歴史的経緯などは省きますが、どう考えても尖閣諸島は日本の領土です。しかし頻繁に中国の船が尖閣周辺の日本の領海を侵犯しています。中国は防空識別圏の設定を発表し、日本の領空を勝手に識別圏の中に入れてしまいました。習近平のめざす「強い軍事力を持って中華秩序を再建する」というビジョンに沿った行動です。日本は領土問題では絶対に譲歩しないでしょう。その結果、尖閣問題は日中間の対立点として長く続くと思われます。一方中国としては、日本との経済関係の悪化は避けたいという本音もあります。経済的な成長率を維持していくために、日本からの投資も呼びたいし、輸出も増やしていきたい。私個人の考え方からすれば、日本は中国にあまり近づかない方がいいと思います。一定の距離を置いて、ほどほどの付き合いをするのがベストなのではないでしょうか。

●すでにバブル崩壊が始まっている中国の経済情勢
石  中国ではいま経済が傾き始めています。数年前から噂されていた中国の不動産バブルの崩壊が現実になってきました。経済の歴史を見ると、ここ数十年間は大変な経済成長を遂げてきた中国ですが、その主軸は金融緩和政策です。とにかく銀行からお金を引き出して市場に投入しました。リーマンショックによる世界大不況の時も、やはり大規模な金融緩和政策で乗り切ったわけですが、その際に新規融資などで動いたお金はGDPの3割という驚くべき額でした。こんな禁じ手ができるのは政府が絶大な権力を持っている中国だけでしょう。中国の中央銀行は何の独立性もありません。中央銀行の総裁は総理大臣の部下ですから、首相が電話をするだけでお金はいくらでも引き出すことができます。そんな安易なやり方でやりくりしていれば、問題がでてくるのは当たり前ですよね。そのひとつが不動産バブルです。融資を受けた企業がその金を不動産に注ぎ込み、不動産価格はどんどん上昇していきます。2009年だけで中国の不動産価格は7割も上がり、去年の年末までに、北京や上海の地価は東京やニューヨークを越えるようになりました。しかし世界第2位の経済大国となった今も、中国国民の平均所得は日本の1/5程度、所得は低く、地価だけが高い状況が続く中で、各銀行はついに不動産開発業者に対する貸し出しや個人の住宅ローンの貸し出しを停止し始めました。不動産関係の融資はいま一番危険ですから、銀行としては当然の措置です。住宅ローンを借りられないと、庶民はマンションなどを買うことができません。買えなくなると不動産は売れなくなります。在庫も余っているし、さらなる開発もできなくなる。こうした状況が続けば、最終的には不動産在庫を大幅な値下げをして売りさばかなくてはならなくなります。これが不動産バブルの崩壊です。いま中国では、このプロセスがすでに始まっているのです。また中国経済のもう一つの牽引車であった輸出も、国内インフレによる労働力コストの上昇などで伸びが止まりました。先ほどお話しした外交的な問題に加え、こうした経済の先行きを考えると、中国の国内は今後大変厳しい状況となり、その反動として中国の対外姿勢はより強硬なものになるのではないかと私は思っています。

●福岡理事長との対談・参加者とのやり取りから

福岡 石さんは今後の中国経済の展開をどのように見られますか?
石  政権としてはバブルの崩壊を避けるために、もう一度大規模な金融緩和をしたいところですが、インフレもありさすがにもうその手は使えません。貧困層が増大している中で、食料品の価格上昇が続けば、いずれ「革命」ということもあり得ます。そうしたことを考えると、もう不動産バブルの崩壊は避けられないところまで来ていると思います。また習近平政権になって、中国富裕層とその資産の海外流出が始まっています。このままいけば、中国は貧困層だけ残された国になってしまうかもしれません(笑)。
福岡 石さんは最近中国に帰られていますか。
石  習近平政権になってからは危険なので一度も。胡錦濤政権が良き時代に思えるほどです。今の政権は予測不可能、何をするかわからない。
福岡 尖閣も含め対外行動が強硬路線になっていくことは間違いないと。
石  私はそう思います。胡錦濤は進むことも退くことも知っていましたが、習近平は猪突猛進型、しかも政治環境は胡錦濤時代より悪化しています。国内外ともに力ずくの姿勢で突き進むのではないかと思います。
福岡 軍部との関係はどうですか。
石  いま軍を掌握しているのは、むしろ胡錦濤です。現在の軍上層部はすべて胡錦濤が決めた人事です。今後、現政権が行き詰まって新しい指導体制が出来てくれば、国内外の強硬姿勢が変わってくる可能性もあります。
福岡 経済不振による人民のフラストレーションを押えるには、相当の治安力が必要になりますね。
石  中国の治安維持費は国防費を上回っています。貧富格差の拡大、経済成長から取り残された人々の不平不満は、結局権力に向かうのです。
会場から 中国と北朝鮮の関係はどうなっているのでしょうか。
石  ひとことでいえば「腐れ縁」ということでしょう。中国にとっても北朝鮮は厄介な存在ですが、戦略上あるいは地政学上完全に切り捨てることはできません。北朝鮮の体制崩壊が起こらない程度に、その延命に協力する立場。また北朝鮮の「管理」を任されることで、中国の存在感が増すといった利点もあるかもしれません。
会場から 中国と韓国との関係は。
福岡 中国と韓国は今のところ「反日」という方向で一致しているようですが。
石  日中の関係がこじれている今、韓国にとって一番賢明な外交施策は、日本と中国双方に良好な関係を築き、アジアにおけるバランサーの役割を果たすことだと思いますが、今の朴政権は正反対の愚かな反日外交をやっています。