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第45回新現役宣言フォーラム = 岡本行夫氏を迎えて=

 

「日本が世界からとり残されないために」
岡本行夫氏<MIT(マサチューセッツ工科大学)シニアフェロー・新現役ネット理事> 

 

 2014年10月30日、東京・中央区にある東京証券会館ホールで、第45回新現役宣言フォーラムを開催しました。今回はホストの福岡理事長が、前理事長の岡本行夫氏をお迎えした初めてのフォーラムとなりました。会場には、久しぶりの岡本氏のお話を待ちかねていた会員の皆さんがつめかけ、大変有意義な2時間となりました。

岡 本 新現役ネット会員の皆さんこんばんは。我が家に帰って来たような気がします。私がアメリカに行くことになり、福岡政行さんが新理事長を快諾してくれたわけですが、素晴らしい理事長ぶりですね。福岡理事長の仕事ぶりを評価されている方は、拍手をしてもらえますか?〈満場の拍手〉……ありがとうございます。福岡理事長の信任が決まりました。私の返り咲きの話はなくなりましたね(笑)

 今日はいろいろとお話させていただきます。日中・日韓問題を考えると、実に不透明な時代になって来たなと思います。私の大好きな王之渙という人が8世紀くらいに書いた「登鸛鵲楼(かんじゃくろうに登る)」という五言絶句の漢詩があります。

白日、山に依りて尽き
黄河、海に入りて流る。
千里の目を窮めんと欲して
更に上る一層の楼。

 前半は雄大な自然を歌っています。鸛鵲楼というのは高い建物ですから、そこからの眺めはとてもいいんですが、自分は千里の眺めを得るためにさらに一つ階を上がるんだ、という内容です。高い建物からの景色ですから、一階上に言ったとしてもそれほど見えるものが変わるわけではないんですが、少しでも良い景色を見たいんだと思う気持ちですね。私は若い人たちにこの詩をよく紹介して、先を見通す力や強い意志を持てと話しています。
 
●イギリス、イスラム国、日本
 私は先週、ロンドンにいたのですが、なんとなく街全体が沈鬱な雰囲気でした。スコットランドの分離独立を阻止することができたので、もう少しほっとした表情を見られるのかと思っていたのですが、そうではないようです。スコットランド問題は一応は片付きましたが、今度はイギリス自体がEUから脱退するかもしれないという話です。2017年末までにそれを問う国民投票が開かれるかもしれません。スコットランドはEU残留を強く希望していますから、「イングランドが反対をするならスコットランドはやはり独立してEUに残るんだ」という、独立の機運が再び高まるかもしれません。火はまだくすぶっているわけです。
 イスラム国の問題もあります。イギリスの若者500人が自ら志願してイスラム国に行ってしまったという話です。テロリストとして訓練され、彼等が帰ってきた時に実際にテロを起こすのではないかという、目に見えない恐怖も忍び寄っています。
 2003年にアルカイダが発表したテロのターゲット国のリストには、日本も入っています。彼等の考えというのは、預言者ムハンマドがいた7世紀が理想の状態で、それ以降の文明社会はすべて悪だ、だからこれを破壊するのは当然だというものです。日本の平和主義者や一部の評論家たちは、「集団的自衛権などと言わずにおとなしくしていれば彼等に狙われることはない」なんていうことを言ってますが、テロリストが憲法9条を読んでいるわけではないですよね。憲法9条があるから日本が守られているわけではありません。テロリストに対しては断固とした意志をもって、力で立ち向かうしかないのです。

●中国・韓国との関係
 日本の外交政策はいま非常に難しい状況にあります。日本が今すべきことは、中国や韓国とこれ以上関係を悪化させないこと。両国が世界でやっている反日キャンペーンへの対応も必要です。私もいまアメリカで講演する際は日本の立場を伝えています。特に中国は大変なお金と人を使ってアメリカでキャンペーンを行っています。国際世論をいかに味方につけるかというのが問題で、その主戦場がアメリカです。アメリカの聴衆たちは中国のキャンペーンに相当影響されています。マサチューセッツ工科大学にも、いたるところに中国のフリーペーパーが置いてありました。アメリカで編集してアメリカで印刷しているもので、なかなか良くできています。タダですから学生たちも読むんですね。これをおそらくアメリカ中の主な大学でやってるんでしょう。大変なお金が必要なはずです。
 日本はこれまで対外PRに使う予算が本当に少なかった。外務省全体で数十億円というところだったと思いますが、中国は2兆円使っていると言われています。とてもかないませんが、菅官房長官は対外情報の重要性を強調して、来年度の予算では一挙に数百億円くらいにするのではないでしょうか。そういうお金でアメリカの学校に寄付をしたり、日本の活動を紹介したりすることになります。私も講演をしていますが、米国のマスコミとの議論にも重きを置いています。彼等も日本からの発信を求めているんです。アメリカのマスコミの人たちは「日本はあまり挑発的な態度をとらないでほしい」と言います。冷静に対応することで、中国や韓国の言っていることがいかに高圧的・感情的なものであるかがわかるからです。
 尖閣の問題は現状維持で早いところ手を打たなければなりません。2012年の9月から、突然中国の公船が尖閣周辺に入り始めました。それまであの周辺は静かな海だったんですが、その頃の現状で固定化というのが日本としては望ましいわけです。中国はその海域を共同管理をするような、双方の船が入れるような形で固定化したいと言っています。主権は日本にあるわけですし、日本としてはそんなことは承知できません。オバマ大統領は「尖閣は日米安保条約の管轄範囲である」と言ってくれました。日米安保条約は日本の施政権にある領域に対して侵略行為が発生した時、アメリカは日本とともに防衛行動を行う、というものです。中国はその発言以来ずいぶんおとなしくなりましたが、一方でアメリカは「領有権についてはアメリカは中立だ」とも言っています。私はアメリカ各地で、「領有権も日本のものだ」とどうして言ってくれないんだと訴えています。尖閣はもともとアメリカに占領されていて、1972年の沖縄返還条約によって日本に返されました。沖縄本島と尖閣は条約上同じステイタスにありますから、アメリカが尖閣について中立的だというなら、沖縄本島についても中立ということになります。いま中国では学生たちが「沖縄を中国に返せ」というとんでもないデモを始めています。さすがにそれはアメリカも認めないでしょう。アメリカがしっかりと「尖閣の領有権は日本のものだ」と言ってくれれば、中国は黙らざるをえなくなると私は思います。

●日本がこれからすべきこと

福 岡 中国との付き合い方ということに関して、岡本さんは今後どうすべきだと感じていますか?

岡 本 太平洋の水を柄杓ですくうようなものかもしれませんが、今できることは、「正しい情報を中国の人たちに伝える」ということでしょう。反日教育は子どもたちに至るまで徹底していますから、そういう教育を中国が見直さない限り、実際には関係改善はなかなか難しいと思います。しかし習近平の次の時代を担う世代、いわゆる第六世代と呼ばれる人たちは反日教育を受けていない世代なので、そうした人たちが指導者になれば、関係改善の道は見えてくるかもしれません。

福 岡 私は天安門事件の時に取材で中国にいたのですが、その時に現地の中国人が「中国には自由の女神がない」とつぶやいたことを思い出します。尖閣の問題は外交上のテクニックが必要だと思いますが、そのあたりは専門家としてどう思われますか?

岡 本 中国の海軍は、太平洋への進出を狙っています。そのゲートウェイのど真ん中にあるのが尖閣ですから、中国はまず尖閣を諦めないでしょう。日本が今できることは、これ以上事態を悪化させないように、現状の固定を図ることしかないと私は思います。